研究概要 |
1.背景 A型肝炎ウイルス(HAV)は衛生環境の悪い地域の乳幼児に高頻度に糞口感染することが知られている。一方胃がんの重要な危険因子であるヘリコバクター・ピロリ(ピロリ)も経口感染すること,衛生環境の悪い地域での感染率が高いこと,幼小児期に感染が成立することなどHAVと類似した特徴をもっており,感染経路がHAVと類似している可能性がある。 2.目的 ピロリおよびHAVに対する血清Ig-G抗体(ピロリ抗体,HAV抗体)保有の一致性から,ピロリとHA感染経路の築地性について明らかにする。 3.方法 新潟県A町とB村住民で同意が得られた2,297名(A町1,086名,B村1,211名;男性823名,女性1,474名)のピロリ抗体およびHAV抗体を測定し,性・年齢別抗体保有率の類似性,各個人の抗体保有の一致性を検討する。 4.結果 両抗体とも男性で陽性率が高い傾向がみられたが,年齢別(40歳未満,40-49歳,50-59歳,60-69歳,70-79歳,80歳以上)のピロリ抗体陽性率は24%,47%,64%,68%,68%,68%,HAV抗体陽性率は2.9%,5.6%,26%,77%,93%,98%であり,60歳未満ではピロリ抗体,60歳以上ではHAV抗体の陽性率が高かった。 各個人における両抗体保有の一致性を検討した結果,ピロリ抗体保有に対するHAV抗体保有の性・年齢補正によるオッズ比は1.04(95%信頼区間0.79〜1.35,P=0.85)であり,両抗体保有の間に有意な関連性は認めなかった。 5.考察 ピロリ抗体とHAV抗体では年齢別の陽性率パターンが異なっており,また個人における保有の一致性も認められなかったことから,ピロリとHAVの感染経路には大きく異なった点がある可能性が高い。ピロリについて劣悪な衛生環境に起因する糞口感染以外の感染経路を今後重点的に検索する必要がある。
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