研究概要 |
ヒト由来のD-アミノ酸酸化酵素(DAO)遺伝子を大腸菌に組み込み,大量発現系を確立した.高純度に精製したDAOをもとに作成したポリクローナル抗体を用いヒトおよびラットの中枢神経系各組織におけるDAOの発現強度を調べたところ,小脳に最も強く存在していた.In situ PCR法により,遺伝子レベルでもこれらの領域にDAOの発現を確認したが,さらに統合失調症と関わりのある大脳にも弱いながら発現が認められた. ラットのC6グリア細胞内にNMDA受容体の活性化因子でありかつDAOの基質でもあるD-Serを細胞外から投与すると細胞死が誘導された.DAOを過剰発現させた系(C6/DAO)を作成し,DAOの機能を調べたところ,この細胞死は過酸化水素によるものであり,DAOの阻害剤共存下ではこの細胞毒性は軽減した.このことからグリア細胞内にあるDAOが細胞外にあるニューロトランスミッターのD-Serの代謝に重要な役割を果たすことが強く示唆された.現在グリア細胞とニューロンにそれぞれ特異的に発現させるプロモーターの下流にDAO遺伝子を組み込んだ発現ベクターを作成中である. X線回折法によりヒトDAOの結晶構造を2.4Åの解像度で決定した.ヒト酵素はブタ酵素と立体構造上も高い相同性を示し,またアミノ酸の代わりにヒドロキシ酸を酸化する類縁酵素の乳酸酸化酵素にもみられる基質のカルボキシル基との親和性に重要なTyrおよびArg残基を保存していた.一方,統合失調症の治療薬であるchlorpromazineはブタDAOの活性を阻害することが報告されていたが,ヒトDAOでは比活性が低下した.これらの結果は基質と拮抗する阻害剤の他,酵素の高次構造の変化もDAO活性の制御の重要な因子であることを示唆しており,構造解析結果をもとにDAO活性を変える分子の探索を今後試みる.
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