研究概要 |
近年、虚血性ストレスによる脳神経系の組織障害が問題となっている。我々は、急性・慢性的な虚血や癲癇性発作等における局所的な脳組織障害の発生に、p53分子を介する脳神経特異的な細胞死へのシグナルが大きく関与していることを明らかにした。p53は、遺伝子損傷や各種の生体ストレスのシグナルによって誘導され、細胞周期、アポトーシス、DNA修復・複製、分化等を制御する多機能性分子としてあらゆる生命科学分野で最も注目されているが、脳神経系細胞における機能の詳細は未だ解明されていない。本研究では、虚血性ストレスによる脳神経組織障害発生のメカニズムを解明する一つの手段として、p53を介して誘導される脳神経細胞死に関連するシグナル分子の検索を行った。即ち、p53正常(+/+),ノックアウト(-/-)マウスの総頸動脈結紮による海馬・線条体神経細胞の虚血性遅延障害モデルを開発し、各脳組織・細胞のプロテオーム及びトランスクリプトーム解析により、虚血性ストレスによる脳神経細胞内におけるp53の動態及びp53有無に付随して発現や翻訳後修飾、機能を調節される分子群を検出・同定し、これらの分子の構造と機能解析を行った。現在までに、プロテオームの手法のうち、2D-DIGE法を用いた結果、約4000個の全蛋白質から213個の特異的な蛋白質(p53遺伝子の有無にかかわるもの93個、虚血性アポトーシスに関わるもの53個、p53およびアポトーシス両者が特異的に関わるもの39個)が検出された。又、cICAT法による解析においては297個の特異的な蛋白質がp53およびアポトーシスに関わる分子として同定された。これらの結果をシグナルネットワーク解析ソフトに供与して特異的p53依存性のアポトーシスシグナル経路を抽出したところ、既存のアポトーシス経路に加え、レドックス関連因子群、notch, wnt, cadherinの関与するシグナル系がユニークな経路として検出された。本研究によってp53及び関連分子の神経細胞死に関わるシグナル伝達機構の一旦が明かになり、これらの分子シグナルの活性を調節する薬剤やターゲット分子が、脳神経系組織障害の予防や治療へ応用できる可能性が示唆ざれた。
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