研究概要 |
周術期管理で難渋する血管透過性の亢進は,急性肺傷害を一つの病態とし,人工呼吸管理を遷延させる。今回の我々の検討は,全身性炎症をLipopolysaccharide(LPS)の静脈内投与で惹起したマウス急性肺傷害モデルを用いて,急性肺傷害を軽減する新しい遺伝子治療nuclear factor κBのデコイオリゴヌクレオチド(NF-κB DON)の吸入療法を考案することだった。 LPS静脈内投与10時間による急性肺傷害マウスモデルに,NF-κB DON 5μg/g体重を点鼻吸入させると,組織化学的に肺胞上皮細胞の肥厚と炎症性細胞浸潤を特徴とする急性肺傷害が明らかに改善した。急性肺傷害10時間で約18倍までに増加した血管透過性は,肺傷害作成6時間後のメチルプレドニゾロン2mg/kgの静脈内後投与では約11.4倍までの改善に過ぎなかったが,肺傷害作成6時間後のNF-κB DON吸入により約2.7倍までに血管透過性を改善させた。これは急性肺傷害の肺で増加した炎症性物質の産生を抑制したためと考えられた。 血管透過性に影響を与えるiNOS, COX2などの炎症性物質,血球細胞浸潤に関与するICAM-1,白血球遊走に関与するIL-8などのケモカイン,肺内微小血栓形成に関与する組織因子などは,Western blot解析すると,急性肺傷害モデルの肺で有意に上昇していたが,これらをNF-κB DONの吸入療法は有意に低下させた。これまで行ってきたNF-κB DONの静脈内投与の研究結果に比べて,急性肺傷害をターゲットとした吸入療法とすることで,NF-κB DON投与量を約20〜25%に下げることに成功し,同等の肺傷害治療効果を得ることができた。現在,急性肺傷害で臨床使用している2mg/kgレベルのメチルプレドニゾロン少量静脈内投与に比較して,明らかに急性肺傷害の程度が軽減することを,上述した機能的研究,生化学的研究から明らかとし,また,組織化学的検討においても,肺構造が維持されることを確認した。
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