研究概要 |
現在,インプラント体の形状や表面構造の改良により,骨組織との結合を得ることが可能になった.しかし埋入部位によっては骨量の不足により,インプラント補綴が困難であることから,自家骨移植や骨充填材を併用した骨造成法が試みられている.骨充填材としてはリン酸カルシウム系セラミックス,特にHAのブロックが用いられてきたが,成形性が悪く,操作性に劣ることが難点である.またこれらは強度が低く,骨伝導性を有する反面,吸収されず骨組織内に残存する.リン酸カルシウムの強度を補う目的では,コラーゲンとの複合化が考えられる.骨はリン酸カルシウムとコラーゲンの複合体であり,生体を模倣した材料という観点からもリン酸カルシウム/コラーゲン複合体は骨充填材として期待される.コラーゲン分子とリン酸カルシウムの反応は,リン酸カルシウム粒子の直径に大きく左右される.市販のリン酸カルシウム粒子の直径は数十μmと大きいことから,コラーゲンとの反応性が低く,硬化体を作製することがこれまで不可能であった.申請者らは独自の成分に調整した擬似体液中での液中放電により,サブミクロンオーダー(0.1-0.2μm)のアルカリ性コロイド状リン酸カルシウムを作製することに成功した.このうちβ三リン酸カルシウム(β-TCP)はハイドロキシアパタイト(HA)にくらべ酸性コラーゲン溶液との反応性がきわめて高く,速やかにゲル化するという画期的な所見を認めた.他機関においてもコラーゲン骨充填材が検討されているが,ブロック状に加工されたものであるため操作性に劣る.これはHAを充填材のフィラーとして用いているため,コラーゲンマトリックスとの反応性が低く,自己硬化型の充填材として使用することが困難なためと考えられる.リン酸カルシウム/コラーゲン自己硬化型骨充填材は水分を含んでも硬化するため,出血下でも使用することができる.なおβ-TCPは組織のpHを中性に維持する作用を持つことで知られ,骨吸収の原因となる炎症を抑える意味でも臨床的に有効であると予想される.
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