研究課題
若手研究(A)
2003年に小生を中心とする研究グループは、有機絶縁体に8GPa級の超高圧を印加するという手法で新規超伝導体を発見し、超伝導の転移温度の世界記録を更新した。この成果は、本科学研究費の研究機関中(2006年3月29日)に、第11回日本物理学会論文賞の表彰を受けたことをまず言及しておきたい。ここで超伝導を観測した物質は、β'-(BEDT-TTF)_2ICl_2という層状有機物質であったが、その後、この物質の関連物質(β'-型BEDT-TTF塩)の超高圧下物性を徹底的に調べ上げ、新超伝導体探索と、β'-(BEDT-TTF)_2ICl_2の超伝導の発現機構を調査した。本年度は、これらの研究成果を受けて、BEDT-TTFではない有機分子からなる層状絶縁体を取り上げ、本研究を締めくくることにした。これは、超高圧下での分子軌道の違いによる物性の振る舞いの違いを調査することにより、より超伝導化しやすく、さらには、より転移温度が高い物質の設計を目指したものである。このうち、我々は、BEDT-TTF分子の外側のS原子をSeに置き換えたBEDSe-TTF分子(既存分子)の合成に成功し、さらに、超伝導を示したβ'-(BEDT-TTF)_2ICl_2と同型の二つの物質β'-(BEDSe-TTF)_2ICl_2とβ'-(BEDSe-TTF)_2IBr_2の結晶合成に成功したことを言及しておきたい。これらの物質は、β'-(BEDT-TTF)_2ICl_2と同様、常圧下では、非常に強固な絶縁体であったが、8GPaの超高圧下で電気抵抗測定を行い、高温部の金属化に成功した。しかしながら、β'-(BEDT-TTF)_2ICl_2塩とは異なり、超伝導の出現には到らなかった。この事実は、我々を深く悩ますこととなった。しかし、同一の結晶構造で超伝導が出現しないという今回の発見は、超伝導の出現条件を考える上で、重要な因子を2,3の効果に絞られることを意味した。現時点では、我々は、Se置換によって、系の擬二次元性が抑制され、より3次元に近づき、このことが、超伝導を阻害していると考えている。これは、同一の結晶構造で、しかも、金属下に成功したにもかかわらず、超伝導が出現しない物質の発見により、初めて、明らかになることである。この成果は、今後の超高圧下超伝導探索において、物質選択または物質設計に重要な指針をあたえるものであり、実際に、この成果を受けて、新たな物質系の研究に移行しているところである。
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