研究概要 |
本研究ではコンピュータの能力を最大限に引き出す新しい制御方式の構築を目指し,環境や負荷の同定機能とスイッチング機構を持つ制御系に着目した研究を行った。ここで取り扱うスイッチング制御とは,1)制御器に積極的にスイッチング機能を導入し,従来の制御器では実現できなかった性能を目指すものと,2)on/offスイッチングのように,極端に低い分解能で量子化されたアクチュエータをもつ系に対する制御理論の構築を目指すもの,の2つの視点を含むものである。今年度は特に2)の視点から,スイッチングデバイスを用いたインバータなどの電力変換器に対して,一般的かつ体系的な制御系の設計論を構築した。ここでは,申請者がこれまで提案してきたマルチレート制御による完全追従制御系の設計法を拡張し,制御対象の状態変数の瞬時値をサンプル点間をも含めて精密に制御する手法を開発した。 すなわち電力変換器の高性能制御に関して,極端に低い分解能で量子化されたアクチュエータに対する体系的な制御系設計理論を構築し,インバータの制御に適用した。ここでは,アクチュエータがリニアな値ではなく,粗く量子化されたベクトルのみを出力することができると仮定し,その出力時間幅を緻密に制御することにより,制御対象の状態変数の瞬時値を精密に制御する。このような制御系に対して,さらに研究代表者が提案しているマルチレート制御を導入することにより,サンプル点上での完全追従制御を達成することが可能となることを明らかにした。さらにインターサンプリングという技術の導入により,サンプル点間応答までをも緻密に制御できる手法を開発し,負荷や環境の情報をリアルタイムにフィードバックする手法を実現した。さらに,得られた成果をインバータの制御系だけではなく,任意波形生成電源装置,ハードディスクやPMモータの超高速制御,並びに電気自動車用モータの高速アンチスリップ制御に適用した。次に,ビジュアルサーボの研究に関しては,昨年開発したスイッチング制御系をより高性能化することにより,物体の運動や距離といった環境情報の変動にロバストな制御系を開発した。さらに環境情報の同定に基づいたロボットハンドの把持制御系を提案した。さらにはナノスケールでのビジュアルサーボを達成するための基礎研究を行うための実験装置を製作し,そのナノスケールサーボを実現した。本年度の予算は,自作した実験装置の部品代や,実験を最終評価するために必要な測定器の購入に使用した。また,最終年度であるため,これまでに得られた成果を国際学会や論文誌で発表するための旅費や参加費,投稿料としても使用した。
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