研究概要 |
油彩画の表面には,絵具による凹凸形状があり,これらは画家が意図して作品に描画したものである.しかしながら,今日までに,油彩画をディジタルデータとして保存することを目的として開発されてきたディジタルアーカイブ技術では,解像度や色に注目したものが多く,残念ながら油彩画表面の形状については考慮されていない.そこで,本研究では,油彩画を平面ではなく立体的な芸術作品として位置づけ,その表面上の凹凸形状を正確に保存し,かつ,3次元CG表示により鑑賞可能なディジタルアーカイブシステムを提案する.本研究により提案するシステムは,保存システムと鑑賞システムの2つのサブシステムにより構成されている. 保存システムにおいては,非接触カメラ式形状計測装置を用いて,油彩画表面の凹凸形状を3次元ディジタルデータとして保存する.このとき,オーバーハングと呼ばれる絵具のエッジ部分に測定誤差が生じることが,油彩画サンプルに対して3次元スキャナを用いて行った実験から明らかとなった.そこで,複数枚のデータから誤差の特徴を解析することで,誤差の発生箇所であるオーバーハングを油彩画から特定する手法と,その箇所に対して,測定された幅と高さの値から誤差を予測し,補正する手法を提案した. 次に,取得された油彩画の3次元ディジタルデータを,ディスプレイに表示し,鑑賞者の入力に応じて視点位置を変更可能なブラウザを鑑賞システムとして開発した.しかしながら,本システムによって表示されたディジタル油彩画と,実物との間で鑑賞の比較実験を行ったところ,特に立体感に関して印象の違いがあることが明らかになった.そこで,保存という観点から離れ,より実物に近い印象を得るための鑑賞用のディジタル油彩画を作成する手法について検討し,オーバーハング部分の形状の盛り上げ操作を行う手法と,テクスチャのコントラストを操作する手法を提案した.両者ともに,操作前に比べて立体感の改善を得ることには成果を得ており,形状操作の方がやや立体感の改善効果が大きく,コントラスト操作の方は処理時間の観点で有効であることが明らかとなった.
|