研究概要 |
本年度は,人工生命手法に基づく次の進化実験と解析を行った. 1.前年度に続き,遺伝子間の非線形な相互作用であるエピスタシスが表現型可塑性進化に及ぼす影響について明らかにするため,エピスタシスの強さを調節可能な量的形質の表現型可塑性の進化モデルを用いた実験をさらに進めた.一連の研究で得た知見である3段階からなるBaldwin効果を中心に研究成果を総合し,人工生命に関する国際的な論文誌であるArtificial Life誌において成果をまとめた[Suzuki and Arita 2007]. 2.Baldwin効果に代表される進化と学習の相互作用に関して様々な議論がなされてきたが,従来の研究では,一回きりのBaldwin効果が生じる過程のみが注目されてきた.そこで,形質の適応性とエピスタシスの影響に相関が存在する多峰性の適応度地形を用い,表現型可塑性の進化に関する計算機実験を行った.その結果,Baldwin効果が繰り返し生じ,集団は進化のみの場合と比較してより高い適応度を獲得することができた[Suzuki, R. and Arita, T. : Repeated Occurrences of the Baldwin Effect Can Guide Evolution on Rugged Fitness Landscapes, Proceedings of the IEEE Symposium on Artificial Life (CI-ALife'07), pp. 8-14, 2007.] 3.生物による環境条件の改変であるニッチ構築が進化に与える影響が注目されている.学習は環境と個体との相互作用で生じるため,環境条件の変化は学習の進化に大きな影響を及ぼすと言える.そこで,進化,学習,ニッチ構築間の相互作用を理解するための第一歩として,進化・学習・ニッチ構築が同時に存在する抽象モデルを構築し,予備的な実験を行った.
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