研究概要 |
平成18年度は,注意が作用するオブジェクトの表象レベルについて,行動指標と事象関連電位(ERP)を用いて検討した. (1)先行手がかり法における反応時間を指標として,部分的遮蔽により作成した視覚オブジェクト上の注意拡散時間を検討した,一連の実験の結果より,注意選択は課題の難易度が高い場合には知覚的補完後の高次のオブジェクト表象に基づくが,一方課題の難易度が低い場合には特徴値の不連続により定義されるより低次のオブジェクト表象に基づくことが示された. (2)視覚皮質における注意の布置をms単位で調べることの出来るERPを用いて,注意が視覚オブジェクト上を拡散する過程を検討した.刺激を左右の視野の両側に同時に呈示し,その片方に持続的に注意するERPパラダイムにおいて,刺激の左右対称性を統制し,刺激の連結による群化の影響を調べた.その結果,均一な連結における連結の程度を比較した実験と,均一な連結と不均一な連結を比べた実験の両方において,2段階の注意拡散過程を同定した.早い時間帯(N1,刺激呈示後150-210ms)では,群化の程度が高くなるにつれて注意は注意すべき空間位置の反対側に誘導されたが,遅い時間帯(late N2pc,約300-400ms)では,群化の程度に関わらず連結によって誘導された.この結果は,視覚オブジェクトには低次と高次の表象レベルがあり,対応する階層的な処理長那皆の各々において注意は逐次誘導されることを示唆する.またこのことより,(1)で示された行動反応が生成されるタイミングによって異なる表象レベルによる制約があることを説明できる. 本研究課題である3次元空間におけるオブジェクトに基づく注意のモデル化のためには,本年度で明らかにした階層的なオブジェクト表象における注意作用が,観察者または環境中心の空間参照枠(平成17年度に検討)とどのように関連するかをさらに検討する必要がある.
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