研究概要 |
本研究では、聴覚・視覚の逆方向マスキング現象を引き起こす刺激を被験者に与えた時の脳活動を詳細に時間推移を追って計測し、マスキング現象との関連を調べるものである。マスキングとは単独では知覚可能な小さな刺激が他の刺激によって知覚できなくなる現象である。特に先行する刺激を後続の刺激がマスクする場合は逆方向マスキングと呼ばれ、物理的に先行する刺激が後の入力に阻害されるという点で興味深い。また,視覚にも同様の逆方向マスキングの存在が知られている。本研究では、聴覚・視覚の逆方向マスキング現象を引き起こす刺激とされない場合の脳活動を比較することにより、脳活動がどのように変化するかを調べた。聴覚刺激では、先行する信号音とマスク音の2つの音の振幅比を変化させ、N1mと呼ばれる刺激後100ms近辺の脳活動の変化を調べた。信号音またはマスク音のどちらかの強度を一定とし他方を変化させたとき,N1m振幅は単調に変化せず特徴的な傾向を示す場合があった.さらに聴覚心理学で提案されている時間窓を用いて,N1mのピーク振幅と潜時のモデル化を行った.このモデルでは,時間窓の中心時刻とN1m潜時との間に線形関係があり,時間窓の出力のべき乗がN1m振幅に比例すると仮定した.モデルは実験結果をかなりよく予測でき,特に先述の特徴的な傾向をよく表すことができた.視覚においても、先行する単語呈示に対してマスク効果有りとマスク効果なしの2種の刺激を用いて単語・非単語弁別課題中の誘発脳磁界を計測し、脳磁界反応の差異を検討した。単語・非単語弁別には、少なくとも形態処理と意味処理が行われる。マスク効果がある場合には形態処理は行われるが意味処理は行われないと考える事ができる。つまり、現れる差異は形態処理以降の文字に関する処理であると考えた。実験の結果、マスク効果の条件間の反応の差は主に潜時200ms近辺以降の左側頭部等にみられた。
|