研究概要 |
昨年度行った心理物理実験結果を基に,視覚的短期記憶における三次元基本図形の照合過程に基づく物体判別の数理モデルを構築した。具体的には,Recognition-By-Component(RBC)理論に基づく構造照合モデル(Hummel & Biederman, Psychol.Rev.,99:480-517,1992;Stankiewicz & Hummel, Proc.18th Annual Conference of the Cognitive Science Society,254-259,1996)に,認識に使用できる基本図形の数という視覚的短期記憶の記憶容量の概念を追加し,実験パラメータによる物体認識結果の相違の説明を試みた。使用できる三次元基本図形パターンの数を1,3,5個と変化させた場合,正答率のデータに対して,視点に依存しない物体認知をよく再現できるのは3個の場合であった。心理物理実験では,基本図形の呈示数を実験パラメータとし,正答率および回答時間との関係を分析することで,200ミリ秒という呈示時間に対する視覚的短期記憶の記憶容量が,基本図形を単位として3個以内であることが示唆されており,本研究の成果は,それを裏付けるものである。こうした成果については,2005年11月に台北で開催された神経回路モデルに関する国際会議International Conference on Neural Information Processing(ICONIP2005)において発表を行った。視覚刺激の呈示時間と視覚的短期記憶容量との関係,および視覚刺激の種類(日常的によく見る物体や幾何学的図形)と視覚的短期記憶容量との関係についても,心理物理実験により解析を進めていたが,現在のところ,新たな知見が得られるところまでは到達しておらず,今後,詳細な検討が必要であると考えられる。
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