研究概要 |
1.変形体によるフラクタル表面の認識 変形体は表面の物理的形状の違い、つまりフラクタル次元の違いを認識する事を明らかにした。アルキルケテンダイマーの表面にフラクタル次元が約2.3次元の部分と2次元の部分を作り、両方を同面積覆うように変形体を置いた結果、移植後細胞全体で同相同期していた振動が10分程度後にフラクタル次元の異なる表面上の振動位相が反転した。 2.変形体の示す多様な収縮振動の時空間パターン 真性粘菌の変形体がドポロジカルに異なる多様な振動パターンを示す事を発見した。内質ゾルから発展する変形体の厚み振動の時空間パターンは時間経過とともに順次A)定在波型、B)時空間カオス的、C)回転ラセン波、D)同相同期型と特徴的な振動パターンを示した。この系で注目すべき現象は外部からの刺激や環境の制御なしに自発的に様々なパターン間をより秩序だった方向へ遷移することである。 3.移動極性の発現とNOSの空間分布パターン 呼吸が移動極性の発現と関連していることから,粘菌に多量に含まれるNOS(一酸化窒素合成酵素)の分布をNADPH-diaphorase組織化学染色法により調べた.光学顕微鏡下で,メッシュワーク構造をとる染色像が得られた.進行先端付近に多く存在し,細胞骨格系と類似の構造をとる非細胞骨格系タンパクNOSの細胞内分布を見出した. 4.忌避・誘引情報の統合 粘菌の誘引・忌避複合刺激に対する行動応答を定量的に測定する事により細胞内情報統合機構を調べた.忌避刺激として化学物質および青色光を用いた場合、共存する誘引物質濃度が2桁高くなると忌避応答の現れる忌避物質濃度および光強度は2桁高くなった.一方忌避刺激としてUV-Aを用いた場合は誘因物質濃度に関わらず忌避行動を示す光強度は同じであった。青色光とUV-Aは異なる受容体およびシグナル伝達系により行動調節されると結論される。青色光と忌避物質の情報は誘因情報とシグナル伝達系経路上の同レベルで統合される競合的分子結合モデルにより定量的に理解された.
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