研究概要 |
大動脈部に用いられるステントは,NiTi合金で作られることが多く,またその製造法は直径数ミリのNiTiチューブを,目標直径(10ミリ以上)まで拡張するのが一般的である.拡張前後の直径の変化率は5倍程度となり,この直径の変化率は従来,多く用いられてきた冠動脈ステントなどの拡張前後の拡張比率が2倍程度であることに比べ,大きく異なり設計が非常に困難である. 本研究では拡張比率が大きなステントにおいて,設計者の意図どおりに拡張させるための設計条件を解明するために,従来から注目してきたセルの長軸方向長さ,円周方向へのセルの配置数などに加えて,セルの形状(支柱部分に屈曲部を設けるなど)にも注目して,数値解析において検討を行った.拡張時における失敗の大半が,拡張時に伴うセル支柱のひずみが破断ひずみ(約45%)を超えることによる支柱の破断にあるので,拡張時の最大ひずみを低減する設計変数の探索を行った. 数値解析の結果から,セル形状にかかわらず,セルの長軸方向長さが拡張の可否を決定する最大の要因であることがわかったが,その影響度(感度)は73.82%〜89.64%と形状によって異なることがわかった.これはセル形状の工夫によって,ステント拡張の容易性が異なることを示唆している.本研究の結果からセルの長軸方向長さが2.9mm以上あれば,ステントを5倍程度の直径まで拡張可能であることがわかった. この知見に基づき,セルの長軸方向長さを決定したステントを作製したところ,拡張前後の変化率が5倍以上に拡張することに成功した. またステントの柔軟性を評価を行うべく,曲げ剛性評価装置を作製した。市販ステント6種類について評価を行った.それらの曲げ剛性が178.1Nmm^2〜337.2Nmm^2の範囲にあることがわかった.本装置による曲げ剛性の測定値と臨床医のステントの柔軟性に関する経験的感覚に概ね一致した.
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