研究概要 |
前年度までの研究において,ポリグルタミン酸やグルテン,セリシンをはじめとするカルボキシル基に富むポリペプチドであれば,体液を模倣した水溶液環境下において,高いアパタイトの沈着能力を発現することが明らかになった。本年度の研究では,ポリグルタミン酸ゲルの三次元構造がアパタイト形成能に及ぼす影響について追究した。まず,架橋剤の量をポリグルタミン酸のカルボキシル基の量に対して20から60モル%まで変化させて水和ゲルを作製した。架橋剤の量が増えるにつれ,生理食塩水中での膨潤の度合いは20モル%>40モル%>>60モル%の順に減少した。引き続いて,著しい膨潤度の違いを示した架橋剤40モル%あるいは60モル%としたゲルについて,塩化カルシウム水溶液で処理した後に,ヒトの細胞外液とほぼ等しい無機イオン濃度を持つ擬似体液に種々の期間浸漬した。その結果,40モル%の架橋剤を添加したゲルは1日で,60モル%の架橋剤を添加したゲルは半日で表面に低結晶性のアパタイトを形成した。後者においては,前者に比べてより多くのカルボキシル基が架橋反応により消費されているため,ゲル表面のカルボキシル基の量は前者より少ないと推測される。それにも関わらず60モル%の架橋剤を添加したゲルがより短期間にアパタイトを形成したのは,架橋度の増加によりゲル中に膨潤した擬似体液が周辺の溶液と循環し難く,結果として局所的にカルシウムイオン濃度の高い状態が維持されやすかったためであると考えられる。以上の結果から,ポリペプチド表面でのアパタイト形成能は,カルボキシル基の量だけでなく,周囲の液のアパタイトに対する過飽和度を支配する膨潤特性によっても影響されることが明らかとなった。
|