研究概要 |
本研究はDNAアプタマーを分子認識素子に用いた,標的物質の目視検出法の開発を目的とする.具体的には,「一本鎖DNAが高密度に固定化された,粒径がナノメートルサイズのコロイド粒子(DNA担持コロイド粒子)の分散液に相補鎖を添加して粒子表面上で二重鎖を形成させると,粒子の分散安定性が低下して系が白濁する」という特異現象を活用する.昨年度は,ATPを標的としたDNAアプタマーを利用し,標的物質であるATPが存在する場合のみ系が無色透明になるという目視検出システムを開発した.本年度は,逆にATPが存在すると系が白濁する検出システムの構築を目指した.まず,DNAアプタマーの3'末端側と相補的な12塩基DNAをグラフトしたポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)を合成した.これを所定の塩を含むトリス緩衝液に溶解し,40℃に加熱して一本鎖DNA担持コロイド粒子を調製した.DNAアプタマーをNTP(N=A,C,G,U)とともに添加し,さらに続けて,粒子表面DNAの相補鎖を添加した.種々のNaCl濃度における分散液の光透過率(500nm)を紫外可視分光光度計で測定したところ,ATPが存在する場合は,NaCl濃度が400mM以上で透過率が1分以内に70%以下まで低下し,系の急激な白濁が観察された.DNAアプタマーがATPと複合体を形成することによって粒子表面から解離し,続けて添加された相補鎖がアプタマーの代わりに粒子表面で完全二重鎖を形成して,粒子の分散安定性が低下したためであると考えられる.一方,CTP,GTPまたはUTPの存在下では同じ塩濃度条件で透過率はほとんど変化せず,系は無色透明のままであった.以上より,DNA担持コロイド粒子の自発的な凝集を活用して,標的物質(ATP)が存在する場合のみ系が白濁する目視検出システムの構築に成功した.
|