研究概要 |
拡張期容積と一回駆出仕事量の関係をみた前負荷・リクルータブル・一回拍出仕事量関係(PRSW)の傾き(Mw)は、臨床上有用であることが知られ、前負荷・後負荷への依存性が少なく心室機能を解析できるので広く用いられる指標となっている。このMwを定常状態の心拍出量(CO)、平均動脈圧(AP)、平均左心房圧(LAP)および心拍数(HR)から推定する枠組みを平成16年度に動物を用いた基礎実験にて開発した。この基礎実験にて確立した推定法を臨床データに適用するためにさらなる推定精度の改善を行った。厳密な理論解析ではMwはE_a×(E_<es>/(E_a+E_<es>))^2/kと強く相関することが示された(E_a,実効動脈エラスタンス(=AP/(CO/HR));E_<es>,左室収縮末期エラスタンス;k,心室硬度定数)。左心室心拍出量曲線の傾き(SL)は解析的にSL=HR×E_<es>/k/(E_a+E_<es>)と表され、SL=CO/(ln(LAP-2.03)+0.8)として算出しうる。kはLAP/EDVとして近似しうる(EDV,左心室拡張末期容積)。よってMwはAP/(CO/HR)×(SL/HR)×LAP/EDV×(SL/HR)と相関すると言う仮説をたてた。その相関関係を用いCO、AP、LAP、HR、EDVからMwを8匹の麻酔下成犬にて正常・心不全において推定できるか検証した。推定精度は良好であった(y=1.1x+13,r=0.91,n=32,20〜150mmHg)。平成16年度に確立した方法に比較し相関係数は上昇しており、推定精度は改善した。このように心室機能の良好な指標であるMwが定常状態の血行動態指標でより正確に推定しえた。平成16年度に確立した方法は、心室硬度定数のばらつきを無視し、経験則に大きく依存していたがこの点を改良したことになる。CO、AP、LAP、HRはスワン・ガンツ=カテーテル・末梢動脈血圧測定から、またEDVは経胸壁心臓超音波検査で容易・非侵襲的に取得しうる。よって臨床にてPRSWの傾き(Mw)を簡便にモニターできるようになることから、今回改善された方法はきわめて有用と考えられた。現在その有用性を臨床データにて検討中である。
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