研究概要 |
本研究は把持訓練マニュアル作成の基礎データとすることを目的に実施し、前年度の研究から対象物(円板)の直径により把持時の手関節と中手指節関節角度を、重さにより遠位指節間関節角度を規定することができる可能性が示唆された。本年度は、円板(直径10cm、高さ1.5cm、重さ150g)を提示する距離(右肩峰を通る矢状軸上30,35,40,45,50cmの5段階)、高さ(机上面上0,1.5,3,4.5,6cmの5段階)、方向(右肩峰を通る矢状軸上(0度),右側へ30度・60度,左側へ30度・60度の5段階)の影響について解析した。対象は20歳代の健常女性10名であった。測定と解析には3次元動作解析装置(Frame-DIAS)および電動ゴニオメータ(DataLOG System)を使用し、右手で円板を把持する時の「前腕回内角度」「手関節掌屈・尺屈角度」「中指の中手指節関節屈曲・尺屈角度」「中指の近位・遠位指節間関節屈曲角度」を算出した。その結果、手関節尺屈角度に円板を提示する方向によって有意な差が認められ(p<0.01)、円板が左側に提示された場合ほど尺屈角度が大きくなるという有意な相関関係が認められた(p<0.001)。また、手関節掌屈角度は円板までの距離が延長するにともない減少した。前腕回内角度は円板を提示する位置が高くなるにつれて減少する傾向を示した。以上より、前年度に報告した対象物の物体特性と関節角度との関係に比べると、対象物の提示位置と関節角度との関連性は低かったが、提示する距離や方向を変化させることで手関節の運動を引き出すことができる可能性が示唆された。一方、高さに関しては、本研究の設定範囲内では対象物自体の高さ・提示する高さのいずれを変化させても手指関節の運動を有効に引き出すことはできなかった。今後、関節運動を適切に引き出すことができる高さについて検討を重ねる必要がある。
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