研究概要 |
1.健常者を対象とした書字評価研究 【方法】対象は,ADLの自立している健康高齢者であり、5群(60〜64歳:A群,65〜69歳:B群,70〜74歳:C群,75〜79歳:D群,80歳以上:E群)に分類し,各群10名ずつの50名である.また,対照となる青年群は、本学学生を10名とした.課題は,一辺が5cm(文字小)枠内に任意の速度でひらがなの「ん」の書字を行わせ、座標データから書字時間,筆跡距離1コマ移動毎の文字速度を算出し,速度曲線グラフを作成後、速度ピーク数をカウントした.【結果】書字時間は,A群4.04±2.18sec, B群3.30±1.23sec, C群3.19±1.23sec, D群4.07±1.15sec, E群4.34±2.61secであり,青年群は2.08±0.60secであり,高齢群は,青年群より時間が長い傾向があった.筆跡距離を比較すると,群間に差は認められず,各群とも指定された枠内にほぼ同じ大きさの文字を書字していた.書字速度は,青年群が高齢群と比較して文字速度が速い傾向があった.青年群では速度ピーク数が,文字小では4個が90%,5個が10%であった.つまり,青年群では,4もしくは5個の速度ピーク数で書字を完了し,それに対して,高齢群での速度ピーク数は,6個以上の割合が高かった.文字毎の速度ピーク数と書字時間の関係は,時間の増大ともに速度ピーク数が増大する傾向があり,書字時間と速度ピーク数の間には,それぞれr=0.920(p<0.05)の高い相関が認められた. 2.片麻痺者を対象とした書字評価研究 【方法】対象は,右片麻痺を呈している方11名で上肢機能がBRSV以上を対象とした。他は上記同様。【結果】書字時間は文字小右4.59±3.8sec、左4.01±2.5secであり、高齢群と有意な差はなかった。筆跡距離は高齢群、青年群と有意は差はなかった.速度ピーク数はすべての書字において6個以上になっており、ピークの判定が不可能な速度曲線を示したものが多かった。 【考察・まとめ】今回の結果から、書字時間が同じ場合でも速度ピーク数に大きい違いが生じたことは,文字の構造特性から速度ピーク数を事前に調査し,実際の書字動作によって得られる速度ピーク数を比較することにより,書いた文字の美しさ(正確さ)や総合的な書字時間(速さ)からだけでなく,運動協調性(スムーズさ)の視点からの評価を可能にすることが示唆された.
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