研究概要 |
MCIからADに移行する要因として注意配分機能とエピソード記憶が関与しているが,注意配分機能に対する作業療法の効果検討はなされていない.注意配分機能の評価法として二重課題法が提唱されているが、我々は,昨年P300振幅の減衰率は健常老人と比較し軽度痴呆症が大きいことを示し,軽度痴呆症は処理資源量が減少していることを示唆した.そこで,本年度は,軽度痴呆症の注意配分機能の効果を検討する目的で軽度痴呆症3名を対象にシングルケースデザインAB法を用いて注意配分機能に対する作業療法介入を行い,P300を指標とした評価と神経心理学的評価を加えて検討した.対象は,N病院の「もの忘れ外来」に定期的に通院しており,作業療法を受けている軽度痴呆症3名(男性3名,年齢68,73,78歳)であった.1.認知機能評価:神経心理学的評価:(1)HDS-R(2)TMT-AとB(3)仮名拾いテストAとB(4)reading span test.ERP評価:(1)単一聴覚的odd-ball課題(2)聴覚的odd-ball課題と視覚選択反応時間課題の二重課題.2.作業療法介入課題:下記の主課題と副次課題の二重課題を遂行する.主課題:ヘッドフォンから無意味な単音を0.5Hzの頻度で1語づつ呈示し,それを復唱する.副次課題:(1)Box-Tracking課題(2)幾何学図形の色・形・位置を記憶再生課題(3)マクラメ(4)20ピースのパズル.3.手続き:3人の被験者に対し,週2回シングルケースAB法を用いて検討した.介入前(A)3週間:現行の作業療法プログラム.介入(B)7週間:現行の作業療法プログラムに加え,2の介入課題を実施する.1つの二重課題につき3分で1日合計15分間実施した.【結果】A氏は,単一・二重課題共にP300振幅がベースラインと比較し介入時に増大した.また、仮名拾いテストBやreading span testの得点も向上した.B氏は,ベースラインではP300の検出は困難であったが,介入時単一・二重課題共に検出が可能となった.【考察】HDS-R得点の高いA氏は,作業療法介入によりP300振幅の増大が得られ,一定の注意配分機能の向上を認めた.B氏においても介入によりP300の検出が可能となる程度の注意処理資源量を得ることができた.
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