研究概要 |
本研究は、日本の伝統芸能において様々に語られる演技技法について実際に舞台で活躍中の役者を対象として実験研究を行い、その技法の奥義を科学的な手法で明らかにすることを目的としている。今年度主に取り上げた演技技法は"息づかい"である。筆者は既に、歌舞伎の熟練者役者(贈歴45年)や狂言の熟練度の異なる役者5名(同家の舞台歴10年〜55年,紫綬褒章受章者を含む)を被験者とし、基本的動作、舞、劇演技中の動作と呼吸パターンとの関係について調べ、熟練に伴う変化や、歌舞伎と狂言に共通する現象について検討を試みてきた。 本年度は、新たに動作解析の要素を加え、現在検討中である。具体的には、動作の最小単元、すなわち「型」「所作」などと総称され、一つ一つに名称のついた動作単元をさらに動作相に分けた各相のつなぎ目に注目している。今までに得られた結果からは、動作を、頭部、上肢、体幹、下肢の身体部位別に区分し、それぞれの部位動作と動作相との関係に注目すると、熟練度が高く、かつ息づかいが整う傾向の強い狂言役者には、動作相に対して特に上肢と下肢とが非連携的に動く傾向が強くなる現象がみられた。またこの現象は、熟練歌舞伎役者においても同様の結果が得られそうである。今後検討を進め、より詳細な結果を導き出してゆく予定である。 報告の実績としては、9月に体育学会(信州大学)、10月にInternational Association for Dance Medicine & Science(米国・サンフランシスコ)にて発表を行った。
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