研究概要 |
本研究はラットのダウンヒルランニング(DH)運動の1日と3日後の脊柱僧帽筋を対象に次の仮説を検証した.1.毛細血管内の赤血球流動性が低下する.2.運動性充血の低下によって,酸素交換能力が低下する.実験にはSD系雌ラット22匹を用いた.傾斜-14度,ランニング速度40m/minで5分間のランニングを2分間のインターバルで90分間負荷した.DHの1日(DH-1群)および3日後(DH-3群)に,脊柱僧帽筋の筋内酸素分圧動態と生体顕微鏡による微小循環動態を評価し,コントロール群(CONT群)と比較した.1.損傷筋における微小血管酸素分圧(PO2m)動態の評価:麻酔下において脊柱僧帽筋を露出し,酸素分圧測定装置に固定した.体温,筋温度を維持し,安静時ならびに電気刺激による筋収縮時の酸素分圧を経時的に評価した.2.生体顕微鏡による損傷筋の血流動態の評価:麻酔下において脊柱僧帽筋を剥離し,生体顕微鏡に設置した.安静時状態で,赤血球,白血球などの循環動態をモニターした.生体顕微鏡による観察結果から,筋損傷が部分的に認められた一方で,毛細血管の損傷は観察されなかった.ところが,安静下での赤血球流動はDHを行なった両群において有意に低下した.また,本研究では安静時のPO2mに群間で有意差は認められなかった.筋収縮状態では,電気刺激による筋収縮開始時からPO2mが低下するまでの時間および筋収縮開始からPO2mが低下して定常状態に達したときの値は,すべての群間で有意差は認められなかった.しかしながら,筋収縮中のPO2mの動態を示すパラメータである時定数はCONTよりDH群において有意に短かった.この時定数の有意な変化は,微小循環における酸素供給や交換(拡散)能力が損傷筋において損なわれていることを示している.本研究の結果は,一過性のエキセントリック運動負荷にともない血管内皮細胞や毛細血管の形態に損傷が見られない一方で,微小循環系の機能が低下している可能性を示唆している.
|