研究概要 |
ブータン・ヒマラヤ中部ルナナ地方のトルトミ氷河において2002年秋期に撮影したステレオ写真を元に、氷河上の写真測量を試行した。氷河変動の観測のためには複数時期における氷河測量が必要であるが、ヒマラヤのような遠隔山岳地における現地測量は数々の困難を伴う。このことがヒマラヤにおける氷河変動量の実態把握を遅らせている主要因の一つと言える。そのため現地測量の労力を軽減する一つの可能性として写真測量の活用を考え、まずその測量誤差の評価を試行した。測量対象域はトルトミ氷河のデブリに覆われた消耗域で、その左岸モレーン上に設置した3基点からのステレオ連続写真を解析した。そして同時期に実施したトータルステーションを用いた測量結果との差として測量誤差を見積もった。トータルステーション測量の測点のうちステレオ写真の複数画像中に同定できた3点についての測量誤差は、水平方向に最大40皿,鉛直方向に最大4mとなった。これまでに得られている当該域における氷河の水平流速が40〜90m/年,表面低下速度が0〜3m/年に対して、今回の測量誤差は同オーダーであることから、残念ながら有効な測量データとはなり得ないことが判明した。このような大きな誤差を生じた原因は、基点から測点までの距離(500〜660m)に対して基線長(120〜260m)が短く、つまり視差が小さいことや、撮影に用いたデジタルカメラの解像度(413万画素)に伴う画像中の測点同定誤差が無視できないこと等が考えられる。これらを参考に、今後さらに測量誤差を小さくできるような撮影条件を検討していく予定である。 また平成17年度までに解析した、ブータン・ヒマラヤ西部〜中東部における11氷河湖の面積拡大速度の比較材料として、平成18年度は、1965年}5月撮影のCORONA衛星画像および2002年1月撮影のLANDSAT-7衛星画像を解析することで、ネパール・ヒマラヤ東部における12氷河湖の面積拡大速度を算出した。その結果、ブータンおよぴネパールにまたがるヒマラヤ地域の氷河湖は、0.01〜0.03km^2/年もの急速な面積拡大を示している湖と、それより1桁以上も拡大速度が小さいほぼ安定な湖とに大別できることが明瞭となった。この2グループの差異は、氷河湖拡大の主プロセスが氷河の融解から活発なカービング(Calving,氷山分離)に移行しているかどうかにあると考えられる。したがって氷河湖拡大ひいては上流部の氷河縮小をモデル化し将来予測を行うためには、このカービング・プロセスに関する更なる観測、研究が重要であることが確認できた。
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