研究概要 |
これまでと同様に、山梨県北杜市のダム湖と流入出河川で炭素フラックスを毎月測定し,ダムによる流域炭素循環の変化を明らかにした.さらに、炭素安定同位体分析により湖内における温室効果気体(CO_2・CH_4)の生成・循環過程を明らかにした。 流出入河川での測定から、ダムは河川を流下する有機・無機炭素の量と質を変化させることを明らかにした。ダムは季節を通じて陸上起源の粗粒有機物(CPOM)流下を遮断(最大2.3×10^5gC/d)していた.細粒有機物(FPOM)は流入と流出に差はないが、流入するFPOMが付着藻類起源であるのに対し、流出するFPOMは植物プランクトン起源と考えられた。また、ダム湖は下流域への無機炭素供給量を増加させていた。そこで,湖に蓄積する有機物の行方を追跡した.その結果、有機物分解により、主に深水層でCO_2とCH_4が生成していた。またδ^<13>C分析から、メタンはCO_2+4H_2経路で生成していることを示した。深水層に蓄積するDICには^<13>Cが多く、有機物分解で生成したCO_2のうち、^<12>CO_2がメタン生成に多く使われた結果と考えられた.ただし、この深水層における炭素ダイナミクスは、大気とのガス交換に大きく影響しなかった。湖面からのCO_2放出の季節変化は、表層の光合成活性に対応していた。一方、CH_4放出量は表層のメタン極大屑の大きさに対応していた。この表層のメタン極大層は深水層のCH_4とは起源が異なることから、動植物プランクトンがメタン生成に関与しているものと予想している。 本課題により、ダムは流.下有機物を遮断することで、下流域の河川食物網を変化させること、また湖内において温室効果気体を生成することを明らかにした。また、大気へのガスフラックスには、湖表層の未知の代謝機構が関与している可能性を発見した.今後、これらの成果を雑誌論文に発表していく予定である。
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