研究概要 |
微小大気浮遊粒子に存在する変異(ガン)原性芳香族の大気環境動態の解明は健康影響評価に必要である。新規制対応のディーゼル機関の登場で規制対象物質排出が低減する一方,未規制物質排出増大が報告されており,ナノ粒子の排出も懸念される。生体影響の観点から重要となるガン(変異)原物質はPAHとニトロ化PAHが主寄与物質だが,未同定物質が多く,これらの化合物の同定,定量および大気中動態の解明が微小大気浮遊粒子の環境影響を考える際に有効である。本研究は微小大気粒子中の変異原性芳香族の大気生成や濃度変動等の動態に関する基礎的な知見を得ることを目的として,以下の検討を行った。 大気の変異原性に寄与が大きい多環芳香族化合物の多くが存在する微小大気浮遊粒子を粒径別に捕集して行った観測の結果から,ナノ粒子として大気中に放出されたものも大気中で速やかに凝集し,サブマイクロメートルレベルの粒子になることが示された。そこで,東京都心部の変異原性多環芳香族化合物の主要発生源である自動車排気に含まれる粒子について放出後の動態を解明するため,幹線道路沿道からの距離が異なる地点においてカスケードインパクターによる250nm〜2.5μmの範囲での粒径別捕集をし,粒径別の質量濃度測定とともに変異原性多環芳香族化合物濃度を前年度確立したHPLC法により分析した。その結果,自動車排気粒子は道路上にて放出された後に,沿道から100m程度もしくは沿道から50mの上空30mに到達した時点で粒径約1μmの粒径に凝集していることが明らかとなった。変異原性芳香族化合物の濃度も粒子の質量濃度に類似した変化を示したが,ガス状で放出されたものの粒子上への凝縮が相まって,変化の幅は大きかった。このことは自動車から排出される有害物質は吸入時,直接血管に侵入しうるナノ粒子としてではなく,肺胞へ沈着しやすいサブマイクロ粒子として人体に曝露されているといえる。
|