研究概要 |
昨年度,ピンセット形の4座配位子(1,2-bis((6-nitroquinolin-2-yl)methylthio)ethane,1)を合成した.本年度は1のニトロ基をアミノ基に変換し,ジグルコール酸無水物と反応させることにより,水溶性のビス(チア/キノリン)配位子(2)を新たに合成した.水中において配位子2は,モノマー種(380nm)とエキシマー種(490nm)に由来する2つの蛍光を示した.ここへ,各種金属イオンを加えたところ,Cu(II)とAg(I)に対して有意なスペクトル変化を示した.従来,人工レセプター分子によるCu(II)の蛍光検出は,有機溶媒中または水との混合溶媒中において行われている.また,その検出は,ほとんどの場合Cu(II)の蛍光消光作用が利用されている.一方,配位子2はCu(II)と錯体を形成することにより,キノリン部位の蛍光強度が著しく増大した.他の金属イオンの場合では,このようなスペクトル変化は観測されなかった.さらに,Fe(II),Co(II),Zn(II),Cd(II),Mg(II),Ca(II)などの金属イオン共存下においても,選択的にCu(II)と錯体を形成し,蛍光増大を示すことが分かった.以上の結果より,配位子2は,水中におけるCu(II)の蛍光検出に応用可能であることが分かった.一方,Ag(I)錯体の場合では,発達したナノファイバー構造を形成することが分かった.さらに,このナノファイバーは加熱・冷却により,解離・再構築され,自己組織性を有することが分かった.このような水溶液中における金属錯体のナノ集積構造は,バイオ分子をはじめとする様々な外部刺激によって分光学的,力学的特性が変化するものと考えられ,新しい刺激応答性ナノ材料として期待される.
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