N-Acetylglucosaminyltransferase(以下GnT)は、哺乳動物のもつタンパク質や脂質に結合した糖鎖上のある特定の水酸基に、N-アセチルグルコサミン(GlcNAc)残基を転移する活性を持つ一群の酵素である。それらのうち特にGnT-Vは、インテグリンなどの細胞接着分子や、マトリプターゼ等の種々の因子を介して腫瘍細胞の悪性化、転移機構に関与していることが報告された。また最近GnT-IXがGnT-Vのホモログでとして報告され、その基質特異性や発現部位などから重要な生命現象に関与している可能性が示唆された。そこで、両酵素の機能解明および基質結合部位付近の立体構造の解明のためのプローブとして、二基質型アナログ化合物をデザインして合成を行った。 まず、リンカー部位を導入せず直接二つの基質ユニットを結合した二基質型化合物の合成を達成した。合成した化合物は二つのGnTに対して良好な阻害効果を示した(GnT-V ; Ki=103μM、GnT-IX ; Ki=7.3μM)。次に、更なる高い阻害活性の発現をめざし、種々の阻害剤の合成を検討した。具体的には、酵素の二つの基質結合ポケットにより良く収まるよう、両基質間に様々な長さのリンカーを導入した化合物の合成を行った。リンカーとしてはすでに合成し良好な阻害効果を示した-S-型を基礎として、そこから鎖長を伸ばしていくべく、-S-S-、S-(CH_2)_n-S-(n=1〜3)の構造を選択し、それぞれを導入した化合物の合成を行った。鍵反応である二つの基質間のカップリングは、あらかじめひとつの水酸基をチオール基に置換した水酸基無保護の三糖と、脱離基を導入したGlcNAc誘導体の間でなって、目的とした種々のリンカーを導入した化合物の合成を達成した。
|