研究概要 |
本研究は、男性が保育職に参入する場面に着目し、女性職を「女性職」たらしめるものを追求し、性別職域分離の改善に向けて新たな提言を行うものである。保育職を「女性職」たらしめているものは何か。「保育職」=「女性職」という認識枠組の維持と変容を解析するため,継続調査を実施しつつ,成果をまとめた.現在,成果をまとめた論文を投稿中である. 今回の研究で明らかになったことは,大きくわけて次の三点である.第一に,保育職をめざす男性の急激な増加によって,性別職域分離現象それ自体は確かに解消する可能性が高い.しかし男性の増加をもたらすのは,一部の保育者やフェミニストが望んだような,保育職の準専門職から専門職へという職業の認識枠組の移行が原因ではない.保育職は,完全専門職とは異なり,少し手を伸ばせば届く,しかも「専門職」の部類に入る,「準専門職」のままであり続けているからこそ,保育職への参入を目指す男性が増加しているといえる. 第二に,保育職は,男性増加によって「女性職」ではなくなるが,「家事育児継承職」のままであり続け,その背後にある「保育の場」=「家庭」という認識枠組も依然として存在しつづける.むしろ,保育職は「家事育児継承職」であることが,保育職の新たな価値を生み出している.過去,「家庭的」という言葉は,誰でもできる,簡単,専門知識は不要といった安易なイメージが付随していた.したがって,保育職の専門職化をのぞむ人々は,保育の場を家庭とみなすことに抵抗感を示す者が多かった.しかし現在はそうではない.保育者を目指す男女は,もはや家庭で「家庭的」であることは望めないことを認識しており,その一方で,保育の場が「家庭的」であることを高く評価していることが明らかになった. 第三に,保育職は「家事育児継承職」であることが,保育職を準専門職の位置にとどめさせている.男性参入は,職業の社会的評価の変化にそれほど影響を与えないということである.
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