研究課題/領域番号 |
16720055
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研究種目 |
若手研究(B)
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配分区分 | 補助金 |
研究分野 |
ヨーロッパ語系文学
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
小川 美登里 (黒岡 美登里) 筑波大学, 大学院人文社会科学研究科, 助教授 (80361294)
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研究期間 (年度) |
2004 – 2006
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研究課題ステータス |
完了 (2006年度)
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配分額 *注記 |
2,900千円 (直接経費: 2,900千円)
2006年度: 1,300千円 (直接経費: 1,300千円)
2005年度: 700千円 (直接経費: 700千円)
2004年度: 900千円 (直接経費: 900千円)
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キーワード | 文学 / ヨーロッパ / フランス現代文学 / エクリチュール / パスカル・キニャール / マルグリット・デュラス / ミッシェル・ビゴトール / 他者性 / レトリック / ジェンダー / 声 |
研究概要 |
平成16年度は、主にフランス現代作家パスカル・キニャールの作品研究を通して、現代フランス文学が直面する「文学性」の再定義の問題に取り組んだが、平成17年度は研究範囲をさらに広げ、マルグリット・デュラスとの比較において研究を試みた。これにより、現代フランス文学の特徴のひとつである言語表現の限界を探る試みと、そこから新たに創出される芸術表現のあり方が浮き彫りにされたといえる。この特徴は、キニャールにおいては哲学的思索を反映する「小論」や「エッセイ」、「断片」に色濃く現れていたのだが、デュラスにおいてそれは物語という虚構空間に溶け込んでいた。すなわち(物語表現の道具である)言語の限界というメタ世界が、デュラスの中では虚構世界そのものの描写としてみられるのだ。廃墟の空間で繰り広げられる物語は、物語内物語であると同時にその外部世界(言語の限界というエクリチュールの現場)のメタファーとしても機能していることを明らかにした。 また、このように言語表現の限界を探る作家たちの試みは、必然的にその地平線に文学の「他者性」との出会いを経験することになる。キニャールやデュラスにとって文学表現の他者的存在は音楽であった。このことを踏まえて、今年度は特に文学と音楽の関係に焦点をあて、キニャール、デュラス文学と音楽とのかかわりを研究した。さらに、現代作家でブルースト以降、音楽と文学の新たな関係を模索するフランス現代作家の一例としてミシェル・ビュトールの作品に注目し、ビュトールの小説・エッセイ・テクストを分析した。特に注目すべきは、ビュトールの手法が、従来のように音楽の中で文学を語る(オペラ的試み)、あるいは文学のなかで音楽を語る(音楽の言語化)といった雛形を完全に放棄し、音楽と文学が相互の自律性を失わずに向かい合えるような装置を作り出したことである。そのため、ビュトールは音楽でもなく文学言語でもない「第三の言語」なるものが可能なテクストの形式を提案し、それをDialoguesと名づけた。今年度の主なテーマとなったミシェル・ビュトール研究の成果は、2007年10月、フランス国立図書館で行われたミシェル・ビュトールに関する国際学会で発表の機会を得た。世界第一線で活躍するビュトール学者たちと肩を並びえたことは報告者にとって実りの多い経験であった。また、今年度は科学研究費の最終年でもあることから、3年間の成果を一冊の本にまとめた。「他者性」と「文学性」をテーマにした論文集には『影の発明』というタイトルをつけた。
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