研究概要 |
理論言語学上、殊に音韻理論を、心的実在性という見地から検証するのが本研究の目的である。初年度である十六年度は、2つの理論に着目した。 (1)特定言語における音素の習得は、対立する音素の弁別に必要とされる音韻素性の習得によってなされる。よって、同じ母語に無い対立の弁別であっても、/b,v/,/h,f,/t/,θ/のように既に日本語(母語)の音素の区別に使用されている音韻素性にて弁別可能なペアと、/l,r/,/s,θ/のような日本語の音素群では必要とされない音韻素性が必要となるものでは、困難さの度合いが違うというものである。(Brown 1998)(この仮説においては、音素よりも音韻素性というカテゴリが重要な役割を担うということを示唆する。) (2)(2)音素習得がどのように行われるか-という問題に関して、2つの対立する仮説が存在する。The Minimal Pair Hypothesisと、The Distribution-Based Hypothesisの2つである。前者は子供は単語の最小対立を元に音素を習得していくという仮説であり、この仮説においては、必然的に意味の習得が音素の習得に先立たねばならない。それに対し、後者では対立音素の特定言語における分布を手がかりに子供は音素を習得していくという仮説である。全ての音素対立に意味上の対立がある語が存在するとは限らず、また、全ての音素対立を示すペア語の意味を習得した後にようやく音素の習得が終わる-というのは考えがたい。よって、第一言語習得においては、後者の仮説が有力である。また、SLAにおいても音素習得には分布が大きく影響するとしている先行研究もある。(Maye & Gerken 2000) 一六年度は、次年度、これら2つの仮説の心的実在性を検証する実験を行う為の下準備として、FLA、及びSLAでの先行研究の収集、検証を行い、下準備を行った。
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