研究概要 |
本研究の目的は、言語音声(特に外国語音声)の音節リズムの知覚および産出を左右するさまざまな音声学的・心理学的要因を検討し、音声知覚と音声産出の共通点や相違点を探ることである。具体的には、要因を、(1)語彙的要因、(2)音韻構造に関わる要因、(3)音響的要因などに大別し、これらの要因と人間による韻律情報処理過程との関係を明らかにする。 計画最終年度の平成18年度は、(1)語彙的要因の効果に注目し、英単語やそれに対応するカタカナ語に対する主観的親密度が音節リズムの知覚・産出にどのような影響を及ぼすか検討した(田嶋,2006)。親密度が異なる単語を刺激語とし、日本語話者を対象に音節数同定課題および音声産出課題を行ったところ、音節の聞き取りおよび発話に対する親密度の影響は皆無に等しいことが明らかとなった。この結果は、外来語がその基となった英単語(例:「stress」〜「ストレス」)と関連が深く意味的にも音韻的にも類似しているにも関わらず、外国語音声の認知過程においては母語の語彙知識からの干渉をほとんど受けないこと、すなわち両者のつながりが比較的弱いことを示唆すると考えられる。 さらに、外国語音声リズムの知覚と産出との関係をより詳しく探るため、日本語話者が発話した日本語に存在しない英語子音連鎖の時間的特徴を音響分析により調査した(Takana & Tajima,2006)。その結果、例えば「tasty」の子音連鎖「-st-」における/s/と/t/の相対的時間長は日本語話者と英語母語話者とで一貫して異なることが示された。この結果は、明確な挿入母音が産出されないような場合でも、日本語話者による英語子音連鎖の発話は英語話者とは異なることを示唆している。同類の英単語の音節数の知覚同定が困難であるという昨年度までの結果と照合すると、知覚的に困難な単語は産出においても困難であり、知覚と産出とが緊密な関係にある可能性を示唆しているといえよう。
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