研究概要 |
言語学面では(1)7ヶ国語(中・韓・越・モンゴル・タイ・カンボジア・マレイシア)の名詞句の対照研究を行った.その結果,全ての言語は所有を表す際に「の」相当語を必要とするが,必須なのは日本語とモンゴル語のみであること,日本語はモンゴル語に次いでN1+N2の名詞句に「の」を必要とすること,「い」「な」形容詞の異なりがあるのは日本語のみであること,名詞句に関してタイ・カンボジア・マレイシアは類似の傾向を示すことを明らかにした.また(2)日本語の名詞句生成に関するルールの解明を試みた.その結果NIN2においてN1がN2の修飾・限定に関わらないものと関わるもの,総称性の高いものと個別性の高いものとで大きく4つのグルーピングを行い,N1が修飾性が低く個別性の高い場合,最も「の」を必要とすること,N1が修飾性が高く総称性の高い場合,最も「の」を介在させないことを明らかにした. 日本語教育面では,(1)日本語学習者の「の」の過剰脱落に関する実態調査を,対訳付日本語データベース(国立国語研究所)と形態素解析ツール「茶笙」を用いて行った.その結果,「の」の過剰脱落は母語に関わらず全ての学習者に共通して見られること,ベトナム人日本語学習者は他のアジア言語を母語とする日本語学習者より名詞句の誤用がおきやすい可能性(語順の異なり,漢越語による語彙の共有,「の」の使用範囲の異なりなどが原因)を指摘した.また,(2)複合名詞に関する容認度調査を実施した. 自然言語処理面では,(1)大規模コーパスを用いた名詞句調査を行った,その結果,NNは慣習上の使用が大きく影響し,NNの使用例しか見られない場合でも「の」を入れて明らかな誤用となる場合は少ない.一方「NのN」の使用例のみのものに「の」を抜くと誤用になるものは多い.よって「の」の過剰使用に対する誤用より,過剰脱落による誤用の方が文の理解度に与える影響が大きいことを明らかにした.
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