昨年度に明らかにした以下の内容を更に精緻化し、また、外国語教育(日本語教育)における漢語習得とも関連付けて論文化した。 ・「在」を含む漢語合成語は、[+animate]の存在主体にも[-animate]の存在主体にも言及可能であるが、これは「在」自体が定めるものではない。 ・「在」を含む漢語合成語における存在主体のanimacyおよびその他の意味特徴を決定するのは、結合される漢字のもつ特質構造における語彙的意味情報である。 さらに、日本語教育での漢語習得にとっては、漢字(漢語)そのものに関する詳細な"字義"の知識よりも、むしろ"意味的な"イメージや"百科事典的"知識というような概念が重要であるとの見込みが提出された。 また、語彙意味論(lexical semantics)のフレームワークが「漢語」という範疇にも適用が可能であるということも示すことができた。と同時に、「いる」「ある」の有する文法的な制約と漢語レベルでの問題とは、ある程度切り離して教育していくべきであるとの主張もなされた。このことは、品詞としての語彙項目(特に動詞)が持つ"文法"のほかに、品詞に収まりきらない漢語というレベルの要素が持つ"文法"が存在する可能性を示唆していることになる。つまり、日本語話者のレキシコン(辞書)には、漢字(漢語)の意味情報(字義ということではない)が細かに記載されていることになる(理論上は、漢字一文字ごとに記載される)。
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