研究概要 |
現在の日本の大都市の多くは、世界の前近代都市の中でも特異な都市形態-近世城下町を淵源とする。その最大の特徴は身分による居住地区分であり、とくに武家地は城下町成立の根幹にかかわり、最大の面積を占めたという点で重要である。すでに、研究代表者は、武家屋敷が果たす都市の機能(治安維持など)、武家地が町・寺社・近郊農村とむすぶ諸関係(地域論)、藩邸の消費・生産が都市経済に及ぼす影響を検討し、武家地を近世の都市社会に位置づけ、近世城下町の構造と特質を照射してきた。本研究では、上記の基礎的研究を発展させ、藩主の分析も継続しつつ、藩主家の女性および女中・江戸詰藩士・旗本・御家人をとりあげる。そして、日記・小遣帳にみる生活・消費行動(購買行動、文化的消費<信仰・遊山>、ゴミの廃棄や町人貸家等)、江戸における身分・藩を越えた「家」の相続等を検討し、より微細なレベルで武家地を都市社会に位置づけることを目的とする。本年度は,A八戸藩の江戸勤番武士の日記・小遣帳(八戸市立図書館)、B松代藩の菩提寺、および江戸藩邸の作事関係史料(国文学研究資料館・真田宝物館)を写真で収集し、分析をすめた。Aについては,江戸における勤番武士の行動の詳細を検討し、田舎者、あるいは余暇をもてあまし行動するといった従来の勤番武士像を批判した(「八戸藩江戸勤番武士の日常生活と行動」、国立歴史民俗博物館企画展示「西のみやこ・東のみやこ」)。Bについては、国元ほか江戸・各地の菩提寺を検討した(「真田家と菩提寺」)。また、藩士の江戸における参詣先の一つとなった武家屋敷内の神仏公開をとりあげ、前藩主の希求、出入商人と近辺地域の関与によって公開が実現したことを明らかにした(「塀の向こうの神仏」)。ゴミの廃棄については、昨年行った廃棄物学会ごみ文化研究部会における報告を活字化した(「江戸のごみ処理再考」)。
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