研究概要 |
今年度の研究は,これまでの研究の延長として分析対象を1950年代末まで拡大するとともに,過去数年間にわたって蓄積してきた1950年代に関する研究全体をさらに長期的な文脈に位置づけるという,大きく二つの方向をとった。前者に関しては,スエズ危機を米・中東関係史の大きな転機と見る通説を大きく修正し,1958年のイラク革命前後に大きな転機を見出す視点を打ち出した。1958年を境に,中東全域を西側陣営に取り込むことを目標とする。1950年代初頭以来継続してきた米国の中東政策の枠組みは崩壊した。これに代わって米国は,エジプトなど中立主義諸国との現実的な関係を構築しつつ,イランなど体制の安定性に不安を抱える親西側諸国からは一定の距離を取ろうとする政策を採用していくことになるが,その背景には,中東を異質かつ政治的に統合不可能な地域と見倣す前提のもとに,それを管理・操作しようとする指向性の強まりがあったのである。 後者に関しては,そのパワーのひとつの絶頂期ともいえる1950年代にすら,米国の中東における影響力がきわめて限定的なものであったことを強調しつつ,1958年以前の統合主義的な中東政策と1960年代後半に顕著になる勢力均衡的な発想に基づく政策の異質性を指摘した。さらにそれらを1990-91年の湾岸危機以降に出現する覇権的中東政策と対比することによって,従来は平板に描かれがちであった冷戦期の米国の中東への関与を,歴史的に描き出すことを試みた。 以上の作業の過程で,1950年代末に出現した米国の中東政策は1960年代後半以降の勢力均衡的な中東政策とは依然として距離があることが明らかになってきた。昨年度中に具体的な成果としては発表できなかったものの,現在は,この間隙を埋める作業として,分析対象をさらに1960年代前半まで拡大する途上にある。
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