前年度の成果である、わが国における医療情報の第三者提供をめぐる法状況の総論的な考察-すなわち、複数の法領域にまたがる医師の守秘義務法制の統合的な把握-の成果を、第35回日本医事法学会で報告し、各方面から多くの示唆を得た。 この成果を踏まえ、最終的な段階として、本年度は各論的に、患者以外の第三者に対する診療記録の開示(つまりは、医療情報の第三者提供)に関し、具体的な場面類型ごとの考察を行った。 医師は原則として、患者の医療情報を患者本人以外の第三者に提供してはならない。他方で、医療情報は社会的に有用な情報であり、例外的に第三者への提供を許容、もしくは義務づけるべき場合が数多く存在する。それでは、具体的にいかなる場合に、いかなる法原理にもとづき、医師は患者の医療情報を第三者に提供してよいのか、あるいは提供しなければならないのか。医療情報の第三者提供が例外的に許容される(もしくは義務づけられる)具体的な諸場面を検討し、そこから抽出される実質的な正当化原理(利益欠如、優越的利益の保護)にもとづき、体系的な類型化を試みた。以下にその骨子を示す(なお、この成果は、平成18年度の大学紀要に掲載するとともに、同年度の日本医事法学会で報告する予定である)。 1利益欠如の原則にもとづく場合 (1)患者の承諾 (2)意思能力なき患者の代理人への提供 (3)死者の遺族への提供 2優越的利益保護の原則にもとづく場合 (1)別の私的利益の保護 (2)公的利益の保護
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