研究概要 |
発展途上国における非ワルラス型市場経済を描写するためのミクロ経済学的モデルとして、貨幣のサーチモデル、特にZhou(1999,IER)のモデルに注目し、その均衡の一意性について研究を行った。この問題は、貨幣経済の発展途中における経済の振る舞いの予測可能性や金融政策の有効性などを考察する上で重要な問題である。Zhouは特にモデルの離散的な定常均衡に焦点を当て、そのような均衡の複数性を証明しているが、連続的な分布を伴うような定常均衡に関して同様に均衡の複数性が成立するのか、また離散的な定常均衡がどのような動学的性質を持っているのかなど、多くの疑問が未解決のまま残されてきた。そこで本研究ではこれまで、連続的分布を伴うような定常均衡に注目し、そのような均衡の一意性を証明することを目的として縮小写像定理などの適用可能性を探ってきたが、この試みは結果的に失敗に終わった。しかしこの試みの過程で、既に存在が証明されている離散的な均衡と、連続的な分布を伴うような均衡とを、異なる解空間に属するという形で区別することが困難であること、また動学的な均衡経路から切り離した形で定常均衡のみを論じること自体が、むしろ一意性の問題に関する議論をより複雑にしている可能性があることなどが示唆された。
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