研究概要 |
平成16年度から平成18年度にかけて、地域交通社会資本整備がもたらす経済効果と政策評価に関して研究助成を受けた。助成に対する責任遂行と説明責任という意味から、何にチャレンジし、どのようなことが発見され、そこからいかなる結論が導かれ、最後にいかなる政策が望ましいと推論されるか、について整理しておきたい。 まず、文献[1]においては地域社会社会資本がもたらすマクロ効果(どれだけ国家経済に生産性効果及ぼしたか)を計測し、加えて首都圏・中部圏・関西圏の都市型社会資本が、それぞれの圏域における近隣エリア、中距離エリア、及び遠隔エリアに及ぼすスピルオーバー効果(経済効果として浸透してゆくプラス効果の相乗性)の計測を行った。この分析の結果として、都市型地域社会資本がもたらす効果は近隣・中距離圏における効果の合計とほぼ同じ程度で遠隔地域に外部性を及ぼすことが定量的に把握された。 次なる試みとして、離島・山村地域における地域型社会資本(ここでも交通社会資本を主として焦点を当てている)が域内及び域外に及ぼす影響度を定量的に把握することにより、既に計測を試みた都市型社会資本のスピル効果との対比を行うことにチャレンジした。その分析内容と結果は文献[2]〜[5]において述べている。ここで直面した題は、離島地域における資本社会データが存在しない点にあった。よって、基礎研究を通じてデータの作成・加工を行い、そこから人工的にデータそのものを推計する作業からスタートさせ、最終的にはモデル分析の枠組みを使用しての生産性分析へと進展させた。分析の結果としては、離島地域における生産性効果は低い水準にとどまり、都市型資本と比較した際の相対的な低さはまぬがれない。また、その効果のスピルオーバー過程を見ても、効果の拡散地域自体が限定されており、したがって地域民間部門に対する有効な政策とは判断しづらい結果が示されている。もちろん、本土経済と比較して離島地域の社会資本整備水準は相対的に遅れており未整備な面も多い。歴史的な背景もある。分析結果から即判断しにくい要素がかなりの程度存在していることは事実である。しかし、外生的かつ長期的な公共資本整備事業が膨大な金額で支給されている現状が、本来の離島内産業構造を歪めていることもまた事実である。したがって、より民間部門への直接効果の高い事業メニューを選定する必要があろうと判断する。 <参考文献> [1]K.Arai,"Estimation of Spillover Effect of Social Capital on Regional Economy",高崎経済大学論集Vol.46,No.2,2004. [2]新井圭太,『離島地域における社会資本蓄積の経済効果に関する基礎研究』,産業研究,Vol. 41,No.1,2005. [3]新井圭太,『奄美群島における交通政策に関する基礎研究-持続可能な基盤整備のあり方に関する考-』,Takasaki, Working Paper No.4,2005. [4]新井圭太,『離島地域における運輸基盤整備の現状と交通社会資本ストック推計-沖縄県島嶼地域における社会資本蓄積効果の考察-』,高崎経済大学論集,Vol.48,No.3,2006. [5]新井圭太,『沖縄県離島地域における交通社会資本生産性の推計-地域基盤整備の政策評価に関するモデル分析-』,高崎経済大学論集,Vol.48,No.4,2006.
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