研究概要 |
我が国は温暖化ガスの排出削減義務を負っているために戦略的に新しい環境技術を開発していく必要性がある。また,脱炭素社会構築へ向けての先導的役割も期待されている一方で,近年ではアメリカ合衆国のプロ・パテント政策の影響を受けて企業や政府がかつてないほど知的財産権を重要視している。そこで本研究では,企業の環境保全投資と環境規制の在り方に着目し,研究目的の基礎分析として企業の規制回避を目的とした海外移転行動を考察した。規制回避行動は技術開発の遅滞や知的財産権の海外流出にもつながりかねず社会厚生や企業利潤にも大きな影響をもたらすこととなるため本研究の中心課題の一つである。研究成果として、クールノー型複占市場において排出税政策が導入される規制環境を想定して,どのような場合に企業の海外移転の可能性があるのかについて,さらに社会厚生の観点から望ましい排出税政策を明らかにした。具体的には,複占市場においても企業が海外に移転するのを阻止することを目的とした排出税政策が有効であることがわかった。また,先行研究と同様に,海外移転費用が十分低く環境被害の程度が激しいときには,排出税率をコミットしても政策が実行できない「規制に関するホールド・アップ問題」が生じることが確認できた。そのため,海外移転費用が大きいときに排出税政策を採用すべきことが理解できた。 また,その成果と併せて企業の海外移転の不可能な場合でのクールノー型およびベルトラン型の複占市場における排出税政策を考察している。理論研究での主要な成果は論文集や著書に発表している。 さらに,日本だけでなくアメリカ・EU・アジア主要国における知的財産権の相違点を分析し,環境保全技術の国際的普及と環境水準の改善に寄与する制度の構築に向けて理論分析と併せて政策的課題を考察した。
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