研究概要 |
今年度の研究では,差別化財の垂直的な意味での「質」を考慮した経済地理モデルの構築を行った.これまでの多くの経済地理モデルにおいては,財の多様性(variety)には注意を払ってきたものの,垂直的な質(quality)については捨象してきた.本研究のモデルにおいては,財の数・多様性は「資本」が規定するものとし,財の質について「知識労働者」によって,財の量的拡大(生産)については「非知識労働者」によって担われると考えた. このような想定の下,まず交易や人口・資本移動がない状況において,各地域における財やサービスの需給量の決定式を求め,その実証分析を行った.特にここでは,対象業種としては12種のサービス業を,またサービスの質を高める要因の一つとして都市密度を考え,その仮説検証を行った.その結果,仮説が支持されたのは,専門的なサービス業や飲食業などに限られた.これらの業種は知識依存度が高く,企業間外部効果が期待される上,需要者の多様性や街の賑わいがサービスの質を向上させる効果もある業種と考えることができた. 次に,交易や人口・資本移動がある状況を考え,交易費用の低下がどのような立地変化をもたらすかを理論的に分析した.その結果,本モデルにおいてもKrugman(1991)が示したのと同様に,交易費用の逓減は労働者や企業の立地を「分離」から「集中」に変化させることが分かった.しかし,両者の立地配分率は一般に同じにはならない.両地域が特に政策を行うこともなく,完全に対称な状態である場合,知識労働者の立地配分率が高くなる地域においては,企業の立地配分率は必ずそれより小さくなる.また,交易費用が十分小さくなると,多くの知識労働者を集めた地域が企業をも集め,「集中地域」となることが分かった. 最後にこれらの結果を,四国地域の状況に当てはめて,求められる政策について考察した.
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