研究概要 |
今年度は主に,過去の文献のサーベイを行い,どのような議論が行われているかについて研究を進めた.基本的な制度は同じながら,シンガポール,アメリカなどそれぞれの国で実際に導入されている制度は異なる.本年度はこうした点を主に明らかにした. いくつかの文献から,シンガポールではMSAへの加入が強制であるのに対し,アメリカでは,MSAあるいはHSAは他の保険プランを含む複数の選択肢の一つにすぎないことがわかる.加入は強制ではなく任意であるため,MSAあるいはHSAが与える影響も複雑になる.さらに,医療保険が雇用主によって供給されていることから,新しいやり方を選択肢に含めるかどうかについては,雇用主の意思決定も大きな影響力を持つことになる.ただし,「医療貯蓄口座は全体として経済的なメリットをもたらすが,個々の家族間の格差を広げ,特に貧しい家族と幼い子どものいる家族にとって不利旨な制度である(Zabinski et al.)」.また,「HSAプランは医療費を減らす可能性があるが,長期のデータを見る必要がある.国家財政上はマイナスに作用する(Congressional Digest)」とも考えられている. 日本でも健康保険に医療貯蓄口座(医療貯蓄勘定)を導入しようという議論がある(2006年12月17日日本経済新聞「医療制度改革 残された課題中 健康保険に新勘定導入を」麻生良文小黒一正など).日本では,世代間格差をならし,賦課方式の是正という意味において制度導入の提案がなされている. Zabinski, D., T.M. Selden, J.F. Moeller, J.S. Banthin (1999), Medical savings accounts : microsimulation results from a model with adverse selection, Journal of Health Economics 18 (1999) 195-218.
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