研究概要 |
本研究の目的は,近年のわが国企業財務の顕著な特徴である株式持ち合いの解消と企業財務のリストラクチャリングについて,理論的・実証的に分析することである.本年度(平成17年度)は,株式持合いの解消に関する理論的な研究を行い,同時に企業財務のリストラクチャリングについて昨年度(平成16年度)の理論分析から導かれたインプリケーションを実証的に検証した. 株式持ち合いの解消については,コーポレート・ファイナンスにおけるエントレンチメント・アプローチを用いてモデル分析を行い,いくつかのインプリケーションを導出した.研究成果は,このたびJournal of Financial Researchに受理された.エントレンチメント・アプローチを用いることにより,経営者が自発的に株式持ち合いを解消し,株主重視の企業経営を志向する必要があることが明らかになった.とくに,コーポレート・ガバナンスが行いやすい環境(規制の緩和など)において,経営者がエントレンチメントである株式持ち合いを放棄するという結論が得られた.この結果は,一見奇妙に思えるが,わが国でマーケットの規制緩和が進んだ1990年代に株式持合いの解消が進んだ現象をとらえている. 企業財務のリストラクチャリングに関する実証研究は,昨年度の理論モデルから導かれたpredictionである「メインバンクの財務状態が企業の債務免除に影響する」ことを実際のデータを用いて検証した.その結果,不良債権比率を用いた金融機関の財務の健全性が,債務免除の成否に影響することが明らかになった.また,債務免除に合意した銀行の株価と銀行財務の健全性についても検証した.銀行財務の健全性は,債務免除のアナウンスメント効果に影響することが明らかになった.実証分析の結果は,海外ジャーナルに投稿中である.
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