研究概要 |
本研究では,持続的競争優位の源泉として注目される組織能力の概念の二重構造を明らかにした. ところで,組織能力の概念は百家争鳴のきらいを否めない.そこで,情報技術活用能力に限定した形で研究を進めていった情報化の過程に注目することにより,企業の持続的競争優位獲得のカギを探ることを本年度の目的とした. 経営の情報化を持続的競争優位に結びつけている事例の中には,最新の情報システムを駆使するというニュアンスよりも,情報機器の利用を通じて「業務遂行の背後に埋め込まれている前提与件」に気づき,その意味の吟味を通じて新しい業務パターンを形成しているものが少なくない.そこで,本研究では,ルーティン遂行における情報機器の利活用能力すなわちリテラシーそのものを議論するのでなく,日常業務活動の遂行(実践)を通じて,情報機器や情報そのものの意味を解釈する能力に注目することにした.言葉を換えれば,「情報という視点から業務遂行ノウハウを再編集し直す能力」として,情報技術活用能力を捉え直す必要性を認識した. さらに,情報技術活用能力を持続的競争優位の源泉に結びつける転換装置として「ケイパビリティ編成原理」の重要性を指摘した.試行錯誤(さらには,社会的構成というニュアンスが色濃い)情報技術活用能力の形成過程は極めて不安定である.それゆえ,情報技術活用能力を持続的競争優位の源泉として高めていくためには,「意図せざる結果」を積極的にブリコラージュしていく必要がある.このような,意図せざる結果の意味を回顧的に意味づけ,組織の価値として定着させるためには,諸活動を紡ぎあわせて,何らかの物語(布置)を形成することが不可欠である.それゆえ,価値前提を絶えず編集し直すという布置形成能力が重要となる.かくて,情報技術に関わる組織能力を「きづき」と「布置形成」という二重構造の能力である点が明らかになった.
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