研究概要 |
本研究は,資産負債観に基づく会計基準への国際的なコンバージェンスのすでに起こった未来として税効果会計基準を位置づけ,収益費用観から資産負債観に基づく税効果会計基準への国際的な転換の論理性の検証,および国際会計基準第12号「法人所得税」の改訂に際して公表された再公開草案第49号(E49)に寄せられたコメント・レターの分析を通じた関係国の選好の分析を行い,資産負債観に基づく会計基準へ収斂の基準論的意義と関係国の選好あるいは賛否との関連性の分析を行うことを1つの目的としていた。 E49の提案(「貸借対照表法・負債法・全面適用」)に対するコメント・レターを整理した結果,税効果会計の枠組み(差異の識別・方法・適用範囲)について,コメント提出者の属性間・所属国間ではなく,属性内・所属国内で選好が対立していることが明らかとされた。 また,クラスター分析を実施した結果,全体の約60%を占めるE49の提案を支持するグループのほかに,「貸借対照表法・負債法・部分適用」,「損益計算書法・負債法・全面適用」,「損益計算書法・負債法・部分適用」という枠組みを選好するグループが存在することを示した。 そして,E49とは相反する「損益計算書法・負債法・部分適用」という枠組みを選好したグループのコメントを検討し,その結果,E49に対する批判は,資産(負債)は少なくともその計上額で回収(決済)されるであろうということを前提として,一時差異に対して画一的,機械的に繰延税金の計上を行うことに集約できることを示した。これは,「フレームワーク」からIFRSが開発される論理において設けられた明示的あるいは黙示的な前提がIFRSの受容可能性を左右する1つの要因であることを示唆する。
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