研究概要 |
本年は,研究期間の最終年度であることから,主に研究のとりまとめに取り組んだ.まず,「利益の質とガバナンス構造」(『証券アナリストジャーナル』第44巻第5号)では,利益の質を会計数値を用いた企業評価式による実際の株価ならびに株式投資収益率の説明力として定義し,企業のガバナンス構造との関係について検証した.分析の結果,経営者が利益を調整するインセンティブが高まるような企業において利益の質が低下する一方,経営者に対する企業内外からのモニタリングが強まることで利益の質が高まることが示唆され,企業のガバナンス構造が会計測定・報告に及ぼすことが見出された.この研究は次の研究で用いる分析フレームワークの基礎となるものである. 日本管理会計学会2006年度全国大会では,「産業構造の変化と会計情報の価値関連性」というタイトルで報告を行い,同学会に論文として投稿予定である.Lev等の米国企業を対象とした研究では,特定産業(情報ネットワーク産業,ソフトウェア産業)における会計情報(特に利益,純資産などの集約尺度)の有用性(あるいは価値関連性)の低下が示唆されているが,こうした結果が日本企業において妥当するのか否かについて検証することを目的としている.1986年〜2005年の東証一部上場企業について分析した結果,研究開発が重視される産業,資源に依存する産業,規制産業に属する企業において会計情報の有用性が低い傾向にあることが一部観察されるが,Lev等の研究で見出されたようなソフトウェア産業,新興的企業における会計情報の有用性の低さ(もしくは低下)は示唆されなかった.ただし,報告を通じて統計的検証の問題,産業構造と会計情報の有用性についての理論的な基礎の構築の必要性の問題が明らかとなった.しかし,その改善は中長期的な課題であると考えられることから今後の課題とし,それまでの成果についてまとめた(現在投稿準備中).
|