研究概要 |
企業結合会計および連結会計では,JVを,「契約に基づいて複数の独立企業によって共同支配された企業」と定義し,「共同支配契約」が存在することが絶対的な要件となっている。本研究は,当該定義が,JVの実態に適合するものなのかどうか,さらには財務諸表利用者にとって有用な情報を提供するものとなるのかどうかを,いくつかの実態調査を通じて明らかにすることを目的としている。 まず,本研究では,証券アナリストに対する聴き取り調査を実施し,当該調査結果を,論文として公表した。 証券アナリストは,財務諸表利用者のうち,最も洗練された専門的利用者として位置づけられる。そこで証券会社・銀行等に勤務し,かつ,国内株式・債権分析業務に従事するアナリスト30名を選定し,JV,および,JV以外の事業提携(アライアンス)の情報をどのように入手し,かつ,それらをどのように利用しているかについて聴き取り調査を実施した。 アナリストは,企業取材等を通じて,重要な持分法適用企業の非開示情報(経常利益,営業利益,売上高等)の入手につとめており,その公的開示を望んでいる。そこでは「共同支配契約」を満たすJVにかぎらず,広く,持分法適用企業全般の情報入手に主眼が置かれている。したがって本調査を通じて,「共同支配契約」を満たすJVにかぎって情報開示を求める現在の制度的あり方は,その有用性に疑問がもたれることが明らかになった。 また,本調査を通じて,事業提携に関して,ライセンス供与契約に伴う収支が,アナリストの分析において重視されていることが明らかになったため,この点について,追加的な調査を行った。 この他,証券取引所のリリース情報において,「提携の締結・解消」として発表されたケースを調査し,300杜程度のJVが識別された。当初,当該JVに対してアンケート調査を実施し,上述の定義が実態として適合しているかどうかについて調査を進める予定であったが,回収率を考慮すると,統計処理に耐えうるサンプル数には至らないと判断されたことから,この点については,一定期間の経過を待ち,十分なサンプル数が確保されると判断された段階で,調査を実施する予定である。
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