研究概要 |
共感を喚起する説得手法が加害行動や迷惑行動を抑制しうるかを明らかにするために,2005年7月に文章の説得メッセージ(ペースメーカー使用者のために電車内での携帯電話使用を控えるよう訴える説得メッセージ)を用いた実験を行った。この実験では,脅威度(高,低)と共感喚起(単純依頼,手記,自由記述,無し)の2つを独立変数(どちらも被験者間要因)として8条件を設け,各条件に被験者を割り当てた。脅威度変数は,説得メッセージに描写された被害者の被害の程度で操作した。共感喚起変数は,共感を喚起する手法の種類によって操作した。すなわち単純依頼条件では,相手の立場にたって具体的に考えてみるよう促す記述を用いた。手記条件では,ペースメーカー使用者の手記を掲載した。その手記には,ペースメーカー使用者が携帯電話のことをどれほど不安に思っているかが,臨場感豊かに記述されていた。自由記述条件では,「自分が優先席付近にいるペースメーカー使用者であり,近くに携帯電話を使用している場面」を想像させ,そのときにどのような気分になるだろうかを想像させ,自由に記述させた。無し条件では,共感を喚起するような文章は挿入しなかった。分散分析の結果,脅威度の主効果は見いだされたものの,共感喚起の主効果は見いだされなかった。すなわち,分散分析では共感喚起手法が有用であることを示す結果は得られなかった。しかし,低脅威度-共感喚起なし条件の加害行動抑制意図得点はその他の条件に比べて(有意な差異は見いだされなかったものの)小さく,実験操作がより強力であったならば,あるいは説得話題が異なっていたならば,主効果が検出された可能性はある。今後,さらに共感喚起要因の影響を検討する必要がある。また文章以外のメディアによる説得(映像など)を用いた同種の実験を行う必要もあるだろう。
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