研究概要 |
本年度は,昨年まで実践した発達障害児への支援の効果を整理した.特に,機能分析を含めた発達障害児の課題の同定と,応用行動分析や社会生活ストーリー法に類似した方法を用い,発達障害児の課題解決に有効な支援方法の模索を行った. (1)ケースの対象および介入方針 研究協力者は,小学校4年生の男子生徒(9歳)およびその保護者であった.ケース開始時は2002年の7月であり,その後の障害認定で中度の精神遅滞であることがわかった.日常的な言語的応答・コミュニケーション能力には問題がなかったが,「ひらがな」・「カタカナ」,むろん「漢字」の読み書きについては苦手としていた. 一方,「周囲への配慮」,あるいは「友人形成」という対人関係形成・維持に関しては,表情認知や他者視点取得などの「共感性」の理解に課題がある可能性があった.そこで本研究では,(1)見本合わせ課題などを用いて,「ひらがな」・「カタカナ」の理解の促進を試み,また,(2)友人関係のトラブル時に引き起こされる4コマ漫画の推論課題や応用行動分析を活用することで他者視点取得の能力を開発することを試みた. (2)方法および結果 (1)については,市販のひらがな・カタカナのワークブックを題材にして,Visual Basicでソフトを開発した.具体的には,「あ」という言葉を学習する際に,「あり」の絵を対呈示し,「あ」というひらがなの字の形と読みの連合を促した.その結果,1年程度で,「ひらがな」のほとんどすべてを読めるようになり,あわせて「漢字」の理解も促進した.しかし「カタカナ」の学習は十分促進せず,「ひらがな」学習との干渉効果が伺えた. (2)については,友達とのけんかや先生に注意される場面の文脈を4コマ漫画で呈示した.その際,最後の場面で漫画の主人公の気持ちを推論させることで,他者視点取得の能力が促進する学習を実施した.なお,漫画の主人公の表情認知については,適切に理解していた.介入の結果,漫画の文脈理解に課題があり,日常場面への般化にまで至る効果は確認できなかった. これらの結果から,認知課題を用いる際の,対象者の認知能力について検討を行う枠組みが必要であることが示された.
|