本研究では、過去の出来事や情報を思い出す回想的記憶(retrospective memory)に対し、未来に行なうべきことを記憶し、いつ何をすべきかを適切な時期に想起し実行するような課題としての展望記憶(prospective memory)に焦点を当てている。特に、展望記憶課題が埋め込まれている文脈が、子どもの記憶パフォーマンスや記憶方略行動に与える影響について検討することを目的に調査を行なった。 手続きとして、従来の展望記憶課題を行なう統制群(背景課題の途中で、ある時間が経過したら、予め指示されていた、しかし子どもにとっては有意味ではないと思われる記憶課題を遂行する)と、子どもにとって意味のある目的を伴う展望記憶課題を行なう実験群(同じ背景課題の途中で、友達の誕生祝いをするために焼いているケーキを忘れずに取り出す)の2つの条件を設定し、各群における子どもの記憶行動の差異を調べた。7歳児28名を対象に、いずれかのグループに子どもを振り分けて個別実験を実施した。年齢・性別・短期記憶スパンにおいて両群に差がないことを確認した。 課題提示から記憶課題遂行までの子どもの行動を調べたところ、指定された時間経過時に課題を遂行した子どもの人数において両群に有意な差はなかった。指定された時期の前に課題を遂行しようとしていた子どもの人数については、実験群が統制郡よりも多い傾向がみられた。また、課題遂行までの問のタイムモニタリング行動に着目すると、実験群の子どもは統制群に比べて時間経過を確認する行動頻度が高いことが示された。
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