研究概要 |
本研究では若年期に好発する過敏性腸症候群(IBS)について,有症状者の心理行動的特徴と,心理社会的要因が症状に与える影響を検討し,これらの知見を踏まえた臨床心理援助を行った。高校・大学・看護学生計200名を対象に調査を実施。Rome II Modular Questionnaireを用いてスクリーニングを行ったところIBS有病率は7.2%であった。次にIBS者のコーピングスタイルの特徴を検討した。STAIの特性不安とMCSD(社会的望ましさ)の得点の高低から各人のスタイルを4種に分けた。健常者とIBS者のスタイルを比較した結果,IBS者は,自身の不安を抑制・抑圧してもなお高不安なDefensive-anxiousの傾向が大であった。また,MCSDの下位尺度-望ましくない衝動の否認と,ストレス内分泌指標-クロモグラニンAの間に中程度の相関が認められた。さらに,ストレス(自覚ストレス調査票)とコーピングの柔軟性(Coping Flexibility Questionnaire)がIBS症状の程度(IBS Severity Index)に与える影響を検討した。ストレス事に対する対処可能感が低く情動焦点型コーピングを多用する特徴を持つ者においてのみ,不安上昇とともに症状が増悪することが確認された。これらより,不安が即増悪要因となるのではなく,社会的望ましさに沿った症状否認,対処可能感の低さといった特徴を持つ者の場合不安が増悪要因になるという,コーピングと不安の交互作用が示された。以上の知見に基づき,希望者を対象に集団認知行動療法を行った。主な内容はIBSとコーピングに関する心理教育,出来事を合理的に捉える,対処方法のレパートリーを増やす,状況に応じて臨機応変に対処方法を使い分ける等である。これらの援助の効果を多角的に検討したところ,一定のストレス低減効果,症状緩和効果が確認された。
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